読売新聞
1万棟 震度6強で倒壊の危険
岩手・宮城内陸地震でも一部の学校で校舎に亀裂やひび割れが出来た(17日、宮城県栗原市の栗駒中学校で)=池谷美帆撮影 文部科学省が20日公表した公立学校の耐震化状況調査では、各自治体の耐震化率に大きな開きが生じている実態が判明した。
学校の耐震化が進まない原因は地方の財政難。中国・四川大地震を受け、学校耐震化工事への国の補助率を引き上げる議員立法が施行されたが、格差解消には自治体の一層の努力が求められている。(社会部 村井正美、渡辺光彦)
「岩手・宮城内陸地震が起き、四川大地震では多くの学校が被害にあった。一日も早く整備できるよう協力してほしい」
東京・霞が関の文科省では20日午後、都道府県の教育委員会と建築指導部門の担当者、さらには建築士団体の関係者による会合が開かれ、渡海文科相と冬柴国土交通相、泉防災相の3人がそろって、学校の耐震化を急ぐよう呼びかけた。
国の個別の施策で、3人の大臣が同時に呼びかけを行うのも、全国の教育関係者と建築関係者が一堂に集まるのも極めて異例だ。
震度6強で倒壊する危険性が高く、早急に整備が必要な学校施設は1万656棟。すべてを耐震化するには国と自治体を合わせ、総額1兆円の公費が必要とみられる。中でも問題なのは自治体によって取り組みに大きな差があることだ。
神奈川90% 長崎は39%
今回の調査で「耐震性がある」と診断されたのは7万9215棟。耐震化率が最も高い神奈川では90・4%に上り、三重(86・5%)、静岡(86・4%)などと続いた。これらの自治体の大半は、東海地震の防災対策強化地域として、1980年度から校舎の耐震補強と改築に国から2分の1の補助を受けていた。
ほかの自治体の補助率が3分の1から2分の1に引き上げられたのは、阪神大震災翌年の96年度で対象も補強工事のみ。耐震補強には校舎1棟あたり6000万〜1億円、改築では10億〜20億円がかかり、地方にとって負担は大きい。文科省施設助成課は「補助率によって取り組みに差が出たのは事実」と認める。
岩手・宮城内陸地震では、震源地に近い学校で壁がはがれるなどの被害が出たが、大きな被害はなかった。両県は東北6県の中では耐震化率が高く、危険性の高い施設も宮城で78棟、岩手で149棟にとどまったことが要因とみられる。
これに対し、耐震化率が39%の長崎など、過去に大きな地震が発生したことがない自治体では危機感が薄いことも、耐震化が進まない原因になっている。
国は補助引き上げ
18日に施行された「改正地震防災対策特措法」では震度6強で倒壊する危険性が高いと診断されれば、耐震補強の補助率が2分の1から3分の2に引き上げられる。地方交付税も活用すると地方の実質負担は31%から13%に減る。改築でも国の補助率は3分の1から2分の1になり、実質負担も27%から20%になる。
これで耐震化が飛躍的に進むかどうか。
市内62の小中学校施設のうち44棟の耐震性が不十分だった山形県新庄市。山形新幹線の開業で駅周辺を整備した結果、財政状況が悪化し、今年度は129億円の予算のうち人件費など必要経費を除くと約6億円しか残らなかった。学校耐震化予算はゼロだ。
「耐震診断をこれまで1校も実施していないし、実施する予定もない」という北海道美唄市も「危険性の高い建物が判明しても予算はない」としている。
議員立法の中心になった遠藤利明衆院議員(自民)は「今回の法改正で財源的な不安は解消されるが、市町村によって意識の開きは大きい。耐震化を進めるには市町村の意識改革が必要で、優先的に取り組むべきだ」と指摘している。
体育館、扉開けて逃げ道 ヒビ、全教員で毎月点検…現実切実
震度6強で倒壊の危険性が高いとされた学校施設はどう使われているのか。
今年3月、「倒壊の危険性あり」という診断結果を公表した千葉県松戸市立牧野原中の体育館では「地震が発生した場合いつでも逃げられるように」と、授業や部活動で使う際には扉を開けっ放しにして、教師が立ち会えない昼休みは使用を禁じている。改築は2010年度内の予定だが、「出来るだけ早く建て替えてほしい」という牧野原中の訴えは切実だ。
同じく校舎と体育館が「倒壊の危険性が高い」と診断された鳥取市立河原中では体育館を使用禁止とし、徒歩数分の二つの市立体育館で授業を行う一方、校舎は月1回、教職員全員が目視でひび割れの有無を点検しながら使用している。
学校施設は災害時の避難場所に指定されていることも多いが、耐震診断の結果を公表している自治体は全体の5割強で、結果を保護者に伝えないまま使用している学校も多い。
文科省が危険性の高い施設を3年以内で解消するとしていることにも、自治体側からは「不可能」(北九州市)との声が上がる。
倒壊の危険性が高い施設が1045棟と全国最多だった大阪府では、高度成長期の人口増に合わせて学校も増えたため、どの自治体も現在の耐震基準になった1981年以前に建設された校舎を数多く抱える
1万棟 震度6強で倒壊の危険
岩手・宮城内陸地震でも一部の学校で校舎に亀裂やひび割れが出来た(17日、宮城県栗原市の栗駒中学校で)=池谷美帆撮影 文部科学省が20日公表した公立学校の耐震化状況調査では、各自治体の耐震化率に大きな開きが生じている実態が判明した。
学校の耐震化が進まない原因は地方の財政難。中国・四川大地震を受け、学校耐震化工事への国の補助率を引き上げる議員立法が施行されたが、格差解消には自治体の一層の努力が求められている。(社会部 村井正美、渡辺光彦)
「岩手・宮城内陸地震が起き、四川大地震では多くの学校が被害にあった。一日も早く整備できるよう協力してほしい」
東京・霞が関の文科省では20日午後、都道府県の教育委員会と建築指導部門の担当者、さらには建築士団体の関係者による会合が開かれ、渡海文科相と冬柴国土交通相、泉防災相の3人がそろって、学校の耐震化を急ぐよう呼びかけた。
国の個別の施策で、3人の大臣が同時に呼びかけを行うのも、全国の教育関係者と建築関係者が一堂に集まるのも極めて異例だ。
震度6強で倒壊する危険性が高く、早急に整備が必要な学校施設は1万656棟。すべてを耐震化するには国と自治体を合わせ、総額1兆円の公費が必要とみられる。中でも問題なのは自治体によって取り組みに大きな差があることだ。
神奈川90% 長崎は39%
今回の調査で「耐震性がある」と診断されたのは7万9215棟。耐震化率が最も高い神奈川では90・4%に上り、三重(86・5%)、静岡(86・4%)などと続いた。これらの自治体の大半は、東海地震の防災対策強化地域として、1980年度から校舎の耐震補強と改築に国から2分の1の補助を受けていた。
ほかの自治体の補助率が3分の1から2分の1に引き上げられたのは、阪神大震災翌年の96年度で対象も補強工事のみ。耐震補強には校舎1棟あたり6000万〜1億円、改築では10億〜20億円がかかり、地方にとって負担は大きい。文科省施設助成課は「補助率によって取り組みに差が出たのは事実」と認める。
岩手・宮城内陸地震では、震源地に近い学校で壁がはがれるなどの被害が出たが、大きな被害はなかった。両県は東北6県の中では耐震化率が高く、危険性の高い施設も宮城で78棟、岩手で149棟にとどまったことが要因とみられる。
これに対し、耐震化率が39%の長崎など、過去に大きな地震が発生したことがない自治体では危機感が薄いことも、耐震化が進まない原因になっている。
国は補助引き上げ
18日に施行された「改正地震防災対策特措法」では震度6強で倒壊する危険性が高いと診断されれば、耐震補強の補助率が2分の1から3分の2に引き上げられる。地方交付税も活用すると地方の実質負担は31%から13%に減る。改築でも国の補助率は3分の1から2分の1になり、実質負担も27%から20%になる。
これで耐震化が飛躍的に進むかどうか。
市内62の小中学校施設のうち44棟の耐震性が不十分だった山形県新庄市。山形新幹線の開業で駅周辺を整備した結果、財政状況が悪化し、今年度は129億円の予算のうち人件費など必要経費を除くと約6億円しか残らなかった。学校耐震化予算はゼロだ。
「耐震診断をこれまで1校も実施していないし、実施する予定もない」という北海道美唄市も「危険性の高い建物が判明しても予算はない」としている。
議員立法の中心になった遠藤利明衆院議員(自民)は「今回の法改正で財源的な不安は解消されるが、市町村によって意識の開きは大きい。耐震化を進めるには市町村の意識改革が必要で、優先的に取り組むべきだ」と指摘している。
体育館、扉開けて逃げ道 ヒビ、全教員で毎月点検…現実切実
震度6強で倒壊の危険性が高いとされた学校施設はどう使われているのか。
今年3月、「倒壊の危険性あり」という診断結果を公表した千葉県松戸市立牧野原中の体育館では「地震が発生した場合いつでも逃げられるように」と、授業や部活動で使う際には扉を開けっ放しにして、教師が立ち会えない昼休みは使用を禁じている。改築は2010年度内の予定だが、「出来るだけ早く建て替えてほしい」という牧野原中の訴えは切実だ。
同じく校舎と体育館が「倒壊の危険性が高い」と診断された鳥取市立河原中では体育館を使用禁止とし、徒歩数分の二つの市立体育館で授業を行う一方、校舎は月1回、教職員全員が目視でひび割れの有無を点検しながら使用している。
学校施設は災害時の避難場所に指定されていることも多いが、耐震診断の結果を公表している自治体は全体の5割強で、結果を保護者に伝えないまま使用している学校も多い。
文科省が危険性の高い施設を3年以内で解消するとしていることにも、自治体側からは「不可能」(北九州市)との声が上がる。
倒壊の危険性が高い施設が1045棟と全国最多だった大阪府では、高度成長期の人口増に合わせて学校も増えたため、どの自治体も現在の耐震基準になった1981年以前に建設された校舎を数多く抱える

